11月3日 夜

この世でいちばんひかりをなめらかに映すのは白ワインだと思った。歌声のような喋り声で、かわいらしくて懐かしくて逞しくて、どうしようかと思った。ほんものだった。 わたし、大学に入ってから一人暮らしの部屋で平賀さち枝の江ノ島ばかりずっと聴いていて…

11月3日

あのときもっとちゃんとビンタして、もっとちゃんとビンタされればよかった。それがすべてなのでもう夢に出てこないでほしい。その時にそうできなかったらもう遅い。ひどいことをしていると思っています、と言われた時、ぶん殴ってよかった。ぶん殴って帰る…

10月31日

やり直しが何度でもきくこと、壊したものに執着しなくても次々に新しいものと出会ってしまうこと、今からわたしが何を失うのも自由であること、その気になったら何もかもうっちゃっていいってこと、大概の不具合はそうするしかなくてそうなっていること、悪…

10月26日

青葉くんと3時間ずっとボールペン片手に唸っていた。話が弾んでばかりで決めるべきことはあまり決められなかったかもしれない。でもいい弾みかただった。わたしは特定の人たちの前で、たくさんのスーパーボールをぶちまけたようにあれこれうきうきとおしゃべ…

10月25日

とても前向きな気持ちで通勤列車のボックス席に座っている。進行方向と同じほうを向いてトンネルをくぐる。シャッフル再生がnever young beachの明るい未来を流す。ぴんと寒いけれど晴れている。黄色い葉から先に紅葉する。 バス停までクレイグが来てくれて…

10月23日

ぼんやりとしたいくつかの不安が低気圧と生理で何倍にも膨れ上がってほとんど泣いたり呻いたりして1日を棒に振ってしまった。やりたいことがあんなにあったのに。攻撃と謝罪以外の選択肢がコマンドとして表示されない。自分の思いつく自分への悪口がいちばん…

1020

人生は円グラフだからなるべく思い出したくないことがあるなら他のもので埋め尽くしながら寿命を延ばし続けるしかない。カメラはいつでも生きているものを生きていないものにしてしまう。地層を重ねて重ねて重ねて重ねて石油になってようやくありがたいと思…

1016

めくるめくスピードであまりにも予想外の方に進む人生ばかりやっているうちに、口癖は「ちょっと待って」と「うそでしょ」になってしまった。自らハンドルをぎゅんぎゅん言わせてコーヒーカップを回しながらそう思った。この人生を、選んだもののようにも、…

1010

「開けたら閉める!箪笥だけに限った話ではないですが」と母に叱られ、含蓄するところが大きすぎてうなだれた。開けっぱなしであり、わたしのキャパシティは自分が思っているよりもずいぶん随分ちいさい。随筆賞をとったときに送られてきた電報のいくつかの…

1003

ミドリのこと好きだなと思ってにんまりしていたら財布忘れて改札通れなかった。玲音ちゃんはコミカルだね、と言われたことがある。コミカルな毎日だと思う。駅員がわたしのうろたえ方を見てほんとうに財布を忘れてきたのだと認めてくれる。ユミさんから1000…

0924

なるべく穏やかにすごしたい。ほんとうにそう思っている。ここ1年半怒涛だったと思う。みっつのお葬式とよっつの失恋とふたつの事故でよろめいて、ひとつの運命とひとつの宿命と静かな小川のおかげでいまはどうにか微笑んでいられる。いくつかの絶交もあった…

0922

雷ちゃんが昨日誕生日だったと言うのでいそいで約束を取り付けた。川沿いのベンチでコンビニのおでんを食べよう、と約束したものの、誕生日だぞ…と思い、100均でしょうもないきんきらのハッピーバースデープレートと、浮かれた眼鏡と、数字のろうそくを買っ…

0920

わたしのこと思い出してね、といくつもの別れ際にそう言った。別れ際にドアまで見送られるのがとても苦手で、信号や分かれ道で、また明日もどうせ会えるみたいなかんじで手を振りたいけど、どうしてもそうってわけにはいかないから、わたしのほうが最後まで…

どこ

怒子、というハンドルネームで共同サイトをやっていたことがある。 16歳か17歳の時なので、6年ほど前のことか。そこには他に喜子と哀子と楽子がいた。文芸部仲間4人で、わたしたちは架空の姉妹を演じていた。喜は黄色、哀は青、楽は緑の、それぞれのプロフィ…

9月5日

あたかもそこで暮らしているかのように、知らない団地に入ってフェンスに頬杖をついてそういう顔ができる。マンションを見上げるのが好きだ。なんていうか、未来があるから。 彼女に腹を立てているのか、あのときの自分に腹を立てているのかわからなくなって…

あki

すごく涼しくて、晴れていて、どことなく音質がクリアで、みんなの香水が柑橘から甘めのものに変わっていて、すべてが濡れてしっとりとしていて、木を焼いたようなけむりくさくて、箱ティッシュみたいなバスが次から次へと駅に来て、人を飲み込んで駅から離…

ファミマの生ハム

コンタクトを切らしたのでここ3日眼鏡で職場に通っている。ガラスに映る自分の顔の野暮ったさに思わず哀れみの表情を向けてしまう。冴えない。冴えないなおい…顔がダサい。 帰り道、何の気なしに眼鏡を外して歩いたら思いの外すべてがぼやけてくらくらした。…

鼻あてのない眼鏡

なんていうか、こう、未収録のものがほしいなって思って(何に?)、日記を書くのを数日渋っていた。いいことなのかもしれない。短歌がたくさんできた。短歌研究新人賞は2首しか載らなかったけれど、いい。なんとなく腑に落ちた。 この2ヶ月のことが2年のこと…

泥濘に

iphoneを家に忘れた。通勤しながら返したいと思っていた業務メールがあり、音楽も聞きたかったので少しうろたえた。取りに帰ることもできないし、どうにもならないのですぐに諦めたけれど、少しうろたえたことにショックを受けた。わたしはiphoneがないとう…

梢の花びらを散らし

わたしよりも背の低いおばあちゃんに、ちいさいねえ、と笑うと、昔はれいちゃんのパパよりもおっきかったの!とおどけた。わたしはおばあちゃんに似ていきたい。大きな金色の鍋で煮付けをこさえてさ。あと2年くらいで死ぬ気がするんだよねえ、と言われたので…

太陽を飲め

夏!トマトが死ぬほど採れますね。 トマトの大好きな方、家庭菜園でぼろぼろ採れたトマトをどうにかして消費したい方におすすめの簡単すぎるトマトジュースのつくりかたを、満を持して書きます。 おばあちゃんから習ったのでとてつもなく大雑把でとてつもな…

レモン汁を大さじ3も

どんよりとした空に雨が降ってうれしい。現代文を解くのに、心理描写、風景描写、って習ったじゃん。雨が降るのはかなしみを風景描写に託したものだって言われるのがすごく嫌だった。雨は感情を浸して透かすための水であって、涙なんかじゃない。 誰と戦って…

とりもどす

「こいだ」「こい?」「こいだよ」「大きいこいだね」「思ってたより全然大きいこいだね」「ちょっとこわいな」「突然来たもんね」「こい、どこにいくんだろう」「ずっとここにいるんじゃない?」「ずっとここにいるといいね」「餌あげればよかったかな」「…

ばかっぽい

きょうもブログが更新されて、きみはげんきなんだな、と思う。緊張するとよくしゃべる。それがあまりにも、キャラクター的でしゃあしゃあとしているので、人差し指で唇を押さえてやりたくなる。シー。サイン会で自分の順番を待ちながら、きみが「お焼香みた…

亀、それも赤いやつ

この先もう一生、いざという大事なところでしくじってしまうのではないか、みたいなことを思い悩む夜もあるような、つまらない人間になってしまった。と、思うのに、感傷に浸るための夜の散歩で人生初の流れ星を見てしまって、もううんざりする。あきらめて…

あたらしいソファ

いつからだろう。普通に生活しているだけで「物語だなあ」と思うようになったのは。 「何を見ても何かを思い出す」というヘミングウェイの短編のことを、芥川賞を取った時のインタビューで沼田真佑が話していた。「何を見ても何かを思い出す」。すっかりわか…

きぼう

きぼうを見よう!というサイトをたまたま見つけた。なんだそのパワーワードは、と思って、開く。 宇宙ステーションってきぼうって名前だったのか。夏の数日、決まった時間に頭上を1〜10分かけて通過する。地域によって見えはじめる時間が違って、チャンスは…

夏は海に行こう

「海に行きませんか」と後輩から誘われて、レンタカーを借りて海へ行った。わたしが運転してあげる!と息巻いていたのに、結局土地勘のある友人が最後まで運転してくれた。 どことなく、行き詰まったメンバーだった。少なくとも5人中3人の鬱憤をわたしは知っ…

アカシアの天ぷら

9年前から母と共に俳句をやっている。風は風でもいまの風に名前があること、花の名前をちょっとずつ覚えることがたのしく、季寄せを捲りながら外をゆっくり歩く時、すこし魔女のようだと思う。 先日句会で「アカシア食べたことある?」と俳句の友達(といって…

たらこがおいしかったことだけ鮮明に覚えている

3月11日。わたしが黙っていてもいろんなひとが黙っていない。よいしょよいしょと特集が組まれるのをぼーっと眺めてしまう。なんだか毎年、3月11日、と思うだけで前日からきもちがはかはかして落ち着かない。かといって何をするでもないんだけど。 車門という…