ok goodboy

師匠カムヒア/雑記

とりもどす

 

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「こいだ」「こい?」「こいだよ」「大きいこいだね」「思ってたより全然大きいこいだね」「ちょっとこわいな」「突然来たもんね」「こい、どこにいくんだろう」「ずっとここにいるんじゃない?」「ずっとここにいるといいね」「餌あげればよかったかな」「あはは」

 

猊鼻渓の雲吐谷はほんとうに雲を吐いていて、涼しかった。たとえ話やダブルミーニングのとき、眉毛がすこしだけ上がるから顔でわかる。多分おんなじ顔をしている。

 

 

後からどうとでも言えるけど、後からどうとでも言えるってわかっているからこそ、きちんとそのつど感動することに意味があるんじゃないかな。わたしがおどけるときみは必ず、なんなの、だれなの、って言うから、はじめまして、れいんっていいます。ってかしこまることにした。その度に初めて出会ったような気持ちになってくれるなら。

 

 

 

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ひとつも忘れたくない、と言った後きみは慌てて、ぜんぶ覚えていられないくらいたくさん楽しく過ごそうね、って言い直したけど、わたしもあの時間のことをぜんぶ覚えていたいと思ったよ。ぜんぶ覚えていられないから日記を書いたり短歌を書いたり写真を撮ったりするのかな。ほんとうにそうなのかな。駄菓子屋でお面を見たり、風鈴の音に撫でられたり、舟下りの船さあ裸足で乗ったから砂で足がざらついたよね、気の抜けたおいしくないファンタ、転んじゃったおばあちゃん、吊り橋を揺らすガキ、北海道からきた老夫婦に冷麺を教え、やけに日本語の流暢な外国人親子のシャッターを押してあげた、バックミラーで花火を見ながら車の窓を開けてチャットモンチーを歌ったこと、混乱してお寿司なのにコーラ頼んじゃったこと、ガソリンスタンド見つからなくて半泣きになったこと、"なにそつ"最低だったこと、すっかり枯れた紫陽花、ばかみたいなハイビスカス、よ市に売られたヒペリカム、白い蜘蛛髪についてたよ、いか焼きのたれが一眼にかかっておいしい匂いになったね、ガリレオガリレイばかにしてたけど恋の寿命歌うから泣いちゃったじゃん、鎖骨にラメ塗ったの気がついた?、どうしてわたしが言おうとすることをその2秒前に言えるの、ブリティッシュとイングリッシュのちがい、あれっ、ボルトって結局どうなったの、資生堂パーラーの椿缶こんなことがないと買えなかった、六分儀のやけにひっつくコースターだな、ねえ、ねえ。どうしよう、取りこぼしたくないことばっかりじゃん。走馬燈って延長料金いくらかな。

 

 

きみはほんとうにそういうところがある、とお互いに言いながら、ふたりとも、ひとりひとりで好きだった同じ歩道橋をのぼって降りる。歩道橋ってさあ、赤信号関係ないんだよ。わたしたちは。だからこそ。きみはふたりでここから出て行こうってって言ってくれて、それだけでわたしは抜け出せたようなもので、これは。これは!その辺によくあるようなやつじゃないんだよ。そう思わない?

 

 

 

 

 

 

早めに仕事を切り上げて外に出た。きみのことを思い出そうとすると、 いつも迎えに来て待ってくれていたようなきがして、今度はわたしが迎えに行こうと思って、開運橋まで小走りで向かった。横断歩道できみを見つけたとき、みつけた、って思った。みつけた。

 

 

きみは心底うれしそうに、わたしをようやく手に入れたって言ったけど、それは、わたしのほうなのかもしれない。

 

 

 

 わたしがわたしをとりもどす。風がぬるくて、歩くのがいつもちょっとだけ早くて、まだたくさん時間がある。安心しよう。安心してしあわせでいよう。