0920

 

 

わたしのこと思い出してね、といくつもの別れ際にそう言った。別れ際にドアまで見送られるのがとても苦手で、信号や分かれ道で、また明日もどうせ会えるみたいなかんじで手を振りたいけど、どうしてもそうってわけにはいかないから、わたしのほうが最後まで送っていく。かっこよく立ち去りたい、なんてことない顔をしたい。そうでなければ泣いてしまうから。ほんとうの意味で何を失ったことも、何に傷つけられたことも、離れてしまったこともないのに。ほんとうの意味ってなんだよ。ふざけんな。

 

もう無敵ではない。のに、無敵でないことがわかっていてそれでもなおみなぎるこの明るさや自信が、かつてのそれよりも信頼の置けるものだと疑わない自分を疑いたい。待ち合わせるときは雨が降っていたのに、台風はそそくさとどっかに行ってしまって、めそめそ帰路についた途端また雨が降ってきて、今回はさすがに上出来すぎる。わたしはなんにもしてないのに舞台がみるみる整ってしまう。思い出してね、じゃなくて、忘れないでね、と言う。思い出しているだろうから。その自信があるから。目を閉じると日々は万華鏡のように鮮やかに散らばってゆっくり回る。二度と同じ形にはならないから、だからあわてて書きとめる。仕掛け絵本の伸びる首、ピアノの黒に映る木々、グラスの底の葡萄、単線、眼鏡の曇り止め、強風に立つ警備員、どんぐりの帽子、380円のトマト、楽天イーグルスの6色ボールペン、ださい決めポーズ、どうぶつにはフラッシュを焚かないで、チョキをすると空間のかたちがかわります、こっそり小窓を覗いたチャペル、うさぎのものまね、気休めに爪でつけるばってん、にせもののかぼちゃ、鮭のしぼり汁ってなんなの、木苺のコンフィチュール、回文の里、バスで乗り合わせた長い三つ編みのおばさん、名湯だから黙るね、行き来する500円玉、ちいさな石臼、フランケンシュタイン、中庭に咲く水引、投げられたように飛ぶ大きな虫、虹をみっつも見たそのうちひとつはとても低いところに、だからナビを間違ったってことにしておいてよ、隣のおじさん星の王子さま読んでた、perfumeみたいな展示、拳より大きなマシュマロ、引いたときに鳴ってしまう鐘、屋根裏部屋の窓、うそみたいに飛んで行った二枚のチケット、空き地になった神社、612、おばさんに引き止められてのぼせたこと、隣のカップルの喧嘩、目の前で売り切れたショートケーキ、冷蔵庫の水深、1分前からタイムリープしてる、無人駅の公衆電話、ピアノアレンジのサザン、赤すぎる耳、ロッカーの番号、わかってる、ぜんぶわかってる。なにを言われてしまうか、なにを言われてしまうおそれがあるか、なにを言われてしまうおそれがあるかわかっていても言う必要があることを。わかってるよ。わかってないかもしれないこともひっくるめて。

 

 

 

瞳のなかに吹く風がある。とてつもなく強い風だと、いまあなたが何を考えているのかなんにもわからなくなってしまう。テレビの砂嵐をずっと見ていたら狂っちゃうじゃん、それと似てて。居てもたってもいられなくなる。仕方なく自分をみつめて空回りするチョロQみたいにおなじところを走ってしまう。

 

 

 

こわくないわけがない。でも、わたしの恐怖はちっとも長続きしない。

 

 

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銀河鉄道はちゃんと地面を走って遠ざかる。

 

 

秋に攫われないで。