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「開けたら閉める!箪笥だけに限った話ではないですが」と母に叱られ、含蓄するところが大きすぎてうなだれた。開けっぱなしであり、わたしのキャパシティは自分が思っているよりもずいぶん随分ちいさい。随筆賞をとったときに送られてきた電報のいくつかのうち、一番大きな物は啄葉先生からの立派なプリザーブドフラワーのオルゴールだった。引き出しが付いていて、そこからアクセサリーを取り出して毎朝出勤しているのだけれど、その引き出しが、思いの外浅くてちいさい。指輪をよっつとネックレスをふたつ、そこにピアスをいつつ入れようとするものだから、丹精込めて並べようとあっという間にぐちゃぐちゃになって、盗賊が宝の山から鷲掴みして突っ込んだようになってしまう。盗賊のきもちで毎朝出勤する。肩に大きな緑色のオウムを乗せている。賢い猿のときもある。

 

SISTERJETのことをよく思い出す。文化祭の前夜祭を山本と抜け出してライブに行って、先生にもクラスメイトにもばればれだったけれど、あまりにチャラく容姿の整った山本と目つきの悪いわたしが出来ていると疑った人は誰ひとりいなかった。と、口を尖らせたら「おれらは違う生き物に見えんだろーよ、届くか?」と山本はchangeの黒い天井を撫でた。山本の身長は183㎝だった。

 

あの日、いつも通りぼーっと、にこにこと、サカベは脱退した。泣きながら書いてきた手紙を渡し、Tシャツにサインしてください、とお願いしたら「ワタルのサインが欲しいでしょ、おれのサインだけだと今後着にくくなっちゃうし」と言って裏へいき、ワタルとアオキのサインももらってきてくれた。でもかなしかった。わたしはサカベが好きだったから。SISTERJETの曲をやるサカベが好きだったから。

 

アンコールにワタルは「17歳の人いますか?」と聞き、山本とわたしだけが手を挙げた。「じゃー、君たちのために」と17をやってくれた。イントロを聴きながら、SISTERJETもわたしの青春も終わったなーと思った。思ったらぼろぼろ泣いていた。出待ちしてドラムセット運ぶの少し手伝ったりしたことをなぜか強く思い出したりした。一生忘れないんだろうなと思って、とりあえず今のところはこんなふうに5年間ずっと覚えている。

 

ロンリープラネットボーイを久々に聴いた。田んぼの中のまっすぐな道をとにかくまっすぐに駆け抜けるしかなかった日々のことを思い出す。カーディガンの袖を指の第二関節まで伸ばして、あれは10月だった。強気で強かった。

 

 

 

どうとでも曲がれる通勤路なのに、まっすぐ歩いてしまう。仕方のないことなんだよ。